若い男が鏡の前を占領している。
手を洗うでもなく、鏡の中のおのれの顔に見惚れているのだ。
そんなに良いルックスなのか? 覗いてみる。
No!
「イケメン」という安っぽい言葉の流行で「ハンサム」の定義が大分下方修正されて、僕に言わせれば大映の大部屋さんクラスのルックスでも現代ではイケメン扱いされている。
水は低きに流れるし、大概の若者が自分に対する評価が甘いのは知っているけれど、駅や駅ビルのトイレで鏡の前を占領している君たち、その顔はそんなにいつまでも見ていたい顔か?
自分のルックスに正しい点数を付けていたら、鏡の前にそんなに長くはいられないと思うぞ。
しかも、他の客が呆れ、諦めて手を洗わずにトイレを立ち去ってもまだ鏡の中の自分を見つめ、前髪の乱れの一本を必死で後方に掻き上げ、また、ジーッと見つめていたりなんかしないぞ。
勿論、僕がその本人認識によるイケメン君を観察していれば、ソレはおのずと僕の性的嗜好を詮索されてしまうだろう。
なのでハッキリさせておくが、僕が前立腺肥大に苦しんでいた2年前、僕のトイレ滞留時間は長かった。
下手すると小便が出るまでに1〜2分かかる事があって、出ない尿を全身の力で押し出すのにまた1〜2分かかった。
僕は多くの場合、個室を探して用を済ませたが、本人認識によるイケメン君は僕がトイレに入った時から出る時までずっーと鏡に見入っていて、結局僕に手を洗わせてはくれなかった。その間およそ4分。
駅のトイレで身だしなみを整えるには長すぎる時間と言える。
そして、何人の男が彼の横に並ぼうが彼は他人の存在に気づきもしなかったのである。本当に。
気づいていたら、あんなに自分に見とれていられる訳がない。恥ずかしいだろ、彼が思っているほどに彼は美しくないのだから。大映なんだから。準主演クラスには手が届かない至って普通のルックス、または普通よりちょっと下、というのが大映なんだから。
映画やドラマでトイレの鏡で化粧を直す美女は昔からいた。
化粧というアクションが伴うのと、化粧で美しくなって行くのは楽しい図柄で、まあ、許せる。
でも、髪の毛一本を必死で他の髪に同化させている男子はどうか?
もしくはジッと我がルックスに見惚れていて、他の客がいるのを忘れている男子はどうか?
自分に声をかけてくる男を待っているのか?
そこはもしかして彼らの仕事場なのか?
でも、朝から?
あんな汚いトイレで? 今、初めてその想像も無くはない気がしてきたけど。…まさか。
イヤー、最近、鏡が6枚くらいある大きな駅のトイレの半分は大抵彼らに占領されてるね。僕の滞留時間が短くなったとは言え、入ってから出るまで、鏡の前を占領している若者は多い。
駅に隣接したデパートのトイレはキレイだけど静かなので、用を足している間中、誰かが入り口近くにいるのって怖くって仕方がない。
いい加減に折り合い付けろよ、お前ら。
自分のルックスと、ヨォ。
まあ、僕もデートの最中、店のガラスに映る自分をうっとり眺めているヤツとして小説の題材にされた事があるけどね。
本当は自分を見てたんじゃなくて、街の景色の中で自分たちカップルがどう見える存在なのかを確かめてただけなんだけど…。ま、言い訳かァ。
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